この記事は、Kindle本『レーシックとICLの違いなどを眼科医が全て網羅して解説した本』(著者:眼科医高橋)の冒頭部分(この本について・要点・はじめに)を公開したものです。各章の全文と参考文献は本に収録しています。最終確認日 2026-09-20。
一般的な医学情報であり、個別の診断・治療の代わりにはなりません。気になることがあれば眼科を受診してください。
Kindle本はこちら:『レーシックとICLの違いなどを眼科医が全て網羅して解説した本』
本書について
本書は、近視の手術であるレーシックと、ICL(Implantable Collamer Lensの略。有水晶体眼内レンズという種類の眼内レンズの製品名で、日本で承認されている後房型はこの製品です。「眼内コンタクトレンズ」は通称)について、いまわかっていることと、まだわかっていないことを整理したものです。書き手は眼科医です。
目的は、手術を受けるか・受けないか・どちらを選ぶかを、ご自身で判断するための材料をそろえることです。手術を勧めるためでも、思いとどまらせるためでもありません。
根拠の選び方。 本書に書いた数字と事実は、次のものだけを根拠にしています。
- 査読付きの医学論文(メタ解析、ランダム化比較試験、大規模な調査、長期の追跡研究を優先しました)
- コクラン・レビュー(世界中の研究を決まった手順で集めて評価する報告)
- 学会のガイドライン(日本眼科学会「屈折矯正手術のガイドライン」第8版、米国眼科学会の診療指針など)
- 規制当局・公的機関の資料(FDA、PMDA、消費者庁、国民生活センター、厚生労働省、国税庁、国土交通省など)
- 学会の公式声明・調査(日本眼科学会、日本白内障屈折矯正手術学会〈JSCRS〉、日本眼科医会など)
クリニックの宣伝ページ、個人のブログ、まとめサイト、SNSの投稿、メーカーの販促資料は根拠に使っていません。記憶だけで書かず、1件ずつ原典(論文の抄録ページ、公式のPDFなど)を実際に開いて、数字・対象となった人数・追跡した期間を確認しました。
文末の角かっこの数字(たとえば [1]、根拠が複数あるときは [1,2] のように書きます)は、その文の根拠にした資料の番号です。番号は章ごとに振り直していて、それぞれの章の末尾の「参考文献」に出典をまとめています。
最終確認日: 2026年9月20日。
本書は、診断や治療の代わりにはなりません。 目の状態は一人ひとり違います。ご自身が受けられるかどうか、いま起きている症状の原因が何かは、実際に診察を受けなければわかりません。気になることがあれば眼科を受診してください。
特定のクリニック・医師・メーカー・製品を勧めるものでも、非難するものでもありません。
書き手の立場について。 筆者は眼科医です。本書の作成にあたり、レンズや機器の製造販売業者、屈折矯正手術を提供する施設からの資金提供・原稿料・便宜供与は受けていません。本書では個々の論文についても、著者とメーカーとの関係(利益相反)が開示されている場合はその旨を書き添えています。同じ基準を書き手自身にも当てはめる、という趣旨です。
まず要点だけ
時間のない方のために、本書全体の要点を先に並べます。それぞれ詳しくは、あとの章で述べます。
- レーシックの短期の成績は良好です。 2008〜2015年に発表された97編・合計67,893眼を集めた文献レビューでは、術後の裸眼視力が20/40(小数視力でおよそ0.5)を上回った眼が99.5%(59,503/59,825眼)、狙った度数の±1.0D以内が98.6%(59,476/60,329眼)でした [1]。割合の分母は、その項目を報告していた論文の眼数であって、67,893眼全体ではありません [1]。日本の全国45施設・78,248眼の後ろ向き調査では、その90.9%がレーシックでした。そのレーシック眼(約7万眼)について、術後3か月で裸眼視力20/20(およそ1.0)以上が95.9%、視力を脅かす合併症の報告はありませんでした。ただしこれは術後3か月時点の、各施設の眼科医による自己記入式アンケート調査で、あとから現れる合併症を数えたものではありません [2]。
- 満足度が高いことと、症状が出ないことは、別の話です。 米国FDAが主導したPROWL研究では、術前に視覚症状のなかった人の43〜46%が術後3か月で新たな症状(光のにじみ、ぎらつきなど)を、術前のドライアイ問診票が正常だった人の約28%が新たなドライアイ症状を報告しました [3]。一方で、集団全体で見ると視覚症状やドライアイ症状を訴える人の割合は術前より減っています。増える人と減る人の両方がいる、ということです [3]。同じ研究で、見え方への不満は1〜4%、手術そのものへの不満は1〜2%です [3]。
- レーシックで最も視力に響きうるのは角膜拡張症です。 推定発生率は0.04〜0.60%(米国眼科学会は「実際の発生率は不明」としています)で、最大の危険因子は術前の角膜形状の異常です [4,5]。術前の形状検査で異常のなかった眼に限れば、近年の集計では10万眼あたり約90例(約0.09%)とこの幅の低い側にあります [6]。言いかえれば、リスクの大半は「術前の検査で見つけられるかどうか」にかかっています。米国眼科学会は、残った角膜の厚みについて「これ以上なら拡張症が起きないと保証できる絶対値は存在しない」と明記しています [4]。
- 長期では近視の戻りが起こります。 -10Dまでの近視97眼の10年追跡では狙った度数の±1.00D以内が73%、再手術20.8%。術前平均が約-14Dという強度近視196眼では42%、27.5%でした [7,8]。後者は、いまの日本のガイドライン(レーザー手術は原則6D・最大10Dまで)ならレーシックの対象にならない度数の人たちの成績です [9]。またこれらは1990年代の機種(VISX 20/20+機械式マイクロケラトーム)による成績です [7,8]。15年追跡の報告もありますが、やはり同じ旧機種によるもので [10]、現行のフェムトセカンドレーザーとカスタム照射による15年・20年の成績は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。
- ICLの数字は、レンズの世代で大きく変わります。 中央孔(レンズ中央の小さな穴)のない旧世代では、10年で水晶体の濁り54.8%・白内障手術18.3%という報告があります [11]。現行の中央孔付きモデルでは、手術やレンズ交換を要した白内障が、日本の177眼・8年追跡で1.7%(3眼)、米国治験629眼の3年で前嚢下白内障0.16%(1眼)でした [12,13]。ただし旧世代の54.8%は症状の有無によらず検査で見つかった濁りをすべて数えたもので、数え方も追跡年数も揃っておらず、同じものさしの比較ではありません [11]。現行モデルの追跡は10年前後までで、まだ十分にはわかっていません [14]。
- ICLは狙った度数によく合い、屈折も追跡期間中は安定しています。 現行EVO/EVO+の米国治験(メーカー主導)では3年で90.7%が±0.5D以内 [13]、日本の全国42施設の調査でも術後3か月で±1.0D以内が99%でした(同じ調査でレーシックは96%)[15]。ただしこれらは別々の研究であり、レーシックと直接比べた数字ではありません [15]。
- 「取り出せば元に戻る」は言い過ぎです。 FDAが承認した患者向け説明書自身が、「摘出後に眼にどのような影響が残るかは分かっていない」「視力が手術前の状態に戻らない可能性がある」と明記しています [16]。旧型の市販後調査(526眼)では、レンズを抜いたまま戻さない「摘出」は、いずれも白内障手術と併せて行われていました。白内障手術を伴わない入れ替え(交換8眼)や位置の整復(4眼)は行われているので、レンズを出せないという意味ではありません。それでも、摘出後に眼に何が残るかは分かっていません [16,17]。
- 手術は近視そのものを治すものではありません。 レーシックは角膜を削るだけで、伸びた眼球そのものを短くするものではなく [18,19]、ICLも眼内にレンズを足す手術で、眼球の後ろ側の形や長さには手を加えません [17]。近視のない人と比べたときの網膜剥離のなりやすさ(強度近視で12.62倍。ただし中等度近視の8.74倍と推定の幅が大きく重なります)や近視性黄斑症のなりやすさ(同845.08倍。推定の幅が230.05〜3104.34と極めて広い値です)は、手術後も残ると考えられます [20]。これらは近視の人と近視でない人を比べた数字で、手術を受けた人と受けていない人を比べたものではありません [20]。
- 手術後こそ、眼科に通い続けてください。 レーシック後はゴールドマン圧平眼圧計での眼圧が実際より平均3.23mmHg低く測られ(PRKなど他の角膜手術後も同様に低く出ます)、緑内障の発見が遅れうるからです [21]。ICLでも角膜内皮細胞やvault(レンズと水晶体の隙間)の変化は自覚症状が出る前に進みます [22,23]。術前の検査データを自分でも保管し、どの科にかかるときも手術歴を伝えてください [9]。
- 日本のガイドラインには、はっきりした線引きがあります。 レーシック・PRK・SMILEは18歳以上、ICLは原則21〜45歳 [9]。近視の矯正量はエキシマレーザー手術(レーシック・PRK)で原則6D(医学的根拠と十分な説明があれば10Dまで)、SMILEは等価球面度数10Dまで(近視10D以下、乱視3D以下)、ICLは6D以上が対象で3D以上6D未満と15D超は慎重に、とされています [9]。どの術式でも共通の前提として、ガイドラインは対象を「屈折度が安定しているすべての屈折異常」と定めています [9]。
- 近視の人が持っている「裸眼で近くが見える」という利点は、手術で失われます。 日本眼科学会のガイドラインは、とくに3D以内の軽い近視について、老視(老眼)の年齢になったときに手術を受けていたことがかえって不利になりうる、と説明することを求めています [9]。手術をしてもしなくても老視は同じように進みますが [24]、手術で遠くに合わせた眼は、近くの眼鏡が必要になる時期が早く感じられます [25]。
- 2009年に東京の1施設で起きた集団感染は、手術に必ず伴うリスクとは分けて理解する必要があります。 通常5,000例に1例程度とされる角膜感染症が639例中67例(約10.5%)に起き、日本眼科学会は「きわめて異常な事態」と述べ、原因を手術器具の滅菌消毒の不具合と考えられるとしました [26,27]。
- わかっていないことも、はっきり書きました。 日本で年間何件行われているかを示す信頼できる公的統計は存在しません [9,28,29]。レーシック後のドライアイが何年続くのか [30]、夜間の見え方の症状が何年残るのか(国が主導した調査でも追跡は最長6か月です)[3]、現行ICLの15年後がどうなるのか [31] も、答えられるだけのデータがありません。
第1章 はじめに
なぜ、いまこの本なのか
SNSでは、「レーシックを受けて何年もたってから、また見えなくなった」「ICLでこんな失敗をした」という声を、以前より多く目にするようになりました。困っている方が現にいることは事実であり、その体験は尊重されるべきものです。
同時に、そうした声のとなりには、「99%の眼科医は受けない」「10年で必ず戻る」「取り出せるから安全」といった、根拠のはっきりしない言葉も並んでいます。どれが確かめられた話で、どれがそうでないのかが見分けにくい状態になっています。
本書は、体験談を否定するためのものでも、不安をあおるためのものでもありません。公表されている研究とガイドラインと公的資料を、良い数字も悪い数字も同じ熱量で並べ、判断の材料をそろえることだけを目的にしています。
体験談と統計は、別の種類の情報です
本書には「何人のうち何人に起きたか」という数字がたくさん出てきます。ここで、はじめにお伝えしておきたいことがあります。
個人の体験と、集団を数えた統計は、別の種類の情報であり、どちらにも意味があります。
統計は「自分に何が起こりうるか」の見取り図を与えてくれますが、「自分に何が起こるか」は教えてくれません。たとえば、97編の集計(多くは術後3〜12か月の時点)で、眼鏡をかけたときの視力が2段階(視力表で2行)以上下がった眼は、この項目を報告した58,653眼のうち0.61%でしたが [1]、その0.61%に入った方にとって、それは100%の出来事です。頻度が低いことは、その方のつらさが小さいという意味ではありません。
逆に、体験談が多く目に入ることが、そのまま高い頻度を示すわけでもありません。つらい思いをした方ほど声を上げ、うまくいった方は黙っている、という偏りが必ず生じるからです。
だから、どちらか一方だけで判断しないでください。両方を並べて読んでいただきたいと思います。
本書の読み方
全15章あります。最初から読まなくてかまいません。いまの状況に合わせて、次のように進んでいただくのが近道です。
これから手術を検討している方
まず第2章で近視と手術の全体像をつかんでください。そのうえで、レーシックが気になる方は第3章(仕組みと適応)→第4章(成績)→第5章(合併症)、ICLが気になる方は第7章(仕組みと適応)→第8章(成績)→第9章(合併症)。どちらにするか迷っている方は第10章の比較表を、手術以外も含めて考えたい方は第11章をご覧ください。決める直前には第14章のチェックリストと質問リストを、そのままカウンセリングに持っていけます。
すでに手術を受けて、いま不安のある方
レーシックを受けたあとに「見えにくくなってきた」という方は第6章から読んでください。ICLを受けたあとで見えにくくなった方は第9章へ。原因は一つではなく、対処も見通しも原因ごとに違います。「この先ずっと何に気をつければよいのか」を知りたい方は第12章へ。すでに症状があって相談先を探している方は、第14章の最後の節に、報告されている手立てをまとめました。
数字や制度そのものを確かめたい方
第13章に日本での手術件数、過去の事件、公的機関の注意喚起、学会のルール、お金と広告の決まり、職業上の制限をまとめました。ネットでよく見かける疑問への答えは、第15章によくある質問の形で並べています。
本の目次
- 第1章 はじめに
- 第2章 近視と屈折矯正手術の全体像
- 第3章 レーシックとは — 仕組み・種類・受けられる人と受けられない人
- 第4章 レーシックの成績 — どのくらい見えるようになり、どのくらい続くのか
- 第5章 レーシックの合併症とリスク
- 第6章 「レーシック後に視力が落ちた」はなぜ起きるのか
- 第7章 ICLとは — 仕組み・レンズの進化・受けられる人と受けられない人
- 第8章 ICLの成績 — どのくらい見えるようになり、どのくらい続くのか
- 第9章 ICLの合併症とリスク —「ICLの失敗」とは具体的に何か
- 第10章 レーシックとICLを直接比べる
- 第11章 その他の選択肢 — PRK・SMILE・ほかの眼内レンズ・オルソK・何もしない
- 第12章 手術のあと、一生ついて回ること
- 第13章 日本の状況 — 件数の推移、事件と注意喚起、制度、お金のこと
- 第14章 受ける前のチェックリスト、受けたあとの相談先 — 向いている人・向いていない人・施設の選び方・聞くべき質問
- 第15章 よくある質問 — ネットで見かける疑問に答える
- まとめ
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参考文献
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